順延重ねた果て悲劇 野焼き3人死亡

現場で何があったのか――。20日午前、御殿場市の陸上自衛隊東富士演習場で発生した野焼き作業中の事故は、尊い3人の命を奪った。1100人以上が参加して、野に火を放つ作業中の事故。現場付近では、16メートルを超える風も観測されたが、関係者は「作業前は穏やかな天候だった」と口をそろえる。実施判断や作業手順、安全対策に問題はなかったのか、御殿場署は捜査を進める方針だ。

 「今日は天気がよくてよかったねと、みんなで話していたのに……」

 野焼きを主催した東富士入会組合の関係者は肩を落とした。当初、野焼きは2月下旬に実施する予定だったが、天候不順で順延が重なっていた。ようやく実施にこぎ着けた矢先、張りきって臨んだ春の恒例行事で悲劇は起こった。

 作業開始前は、それほど風もなく、天候は穏やかだった。ところが、午前9時25分ごろ、着火作業を始めて間もなく、突然強い風が吹き始めたという。

 「事故があったようだ」。無線を通じて仲間から連絡が入ったのは午前10時すぎ。何が起きたかわからず、確認作業に追われた。やがて、参加者が火に巻かれたとの情報が入り、続いて3人の死亡確認が伝えられた。

 死亡した3人は、自衛隊の車両で御殿場市新橋の富士病院に運ばれた。連絡を受けた集まった関係者らは午後3時すぎ、遺体と対面した。泣き崩れ、抱きかかえられるように処置室から出てくる女性や肩を落とす男性の姿がみられた。遺体と対面した男性は「(遺体の損傷がひどく本人か)全然分からない」とつぶやいていた。

 この日の野焼き作業には約1100人以上が参加していたが、このうち行方が分からなくなっている3人の男性は、いずれも野焼き作業などを手伝うため、地元の御殿場市川島田地区から参加していた。地元区長らによると、住民で作る「火防隊」と呼ばれる組織のメンバーで、仲間5人で作業に加わっていたという。

 同じ川島田地区に住み、以前、野焼き作業を経験したことがあるという男性は「風があると火が回るのが早くて怖い。自分も自衛隊車の通る側溝に避難して、火を避けたことがある」と険しい表情で話した。

 演習場周辺ではこの日、時折、10メートルを超える強風が吹き荒れた。静岡地方気象台によると、午前10時前には最大瞬間風速16・4メートルを観測。午前中は、平均7メートル前後の風が吹き続けていたという。

 午後になっても風はおさまらず、消火作業はこの日夕方まで続いた。演習場入り口付近に設けられた自衛隊の仮設テントには、砂ぼこりが舞う中、消火作業を終えた隊員らが続々と戻ってきた。

 周辺では、煙のにおいが漂い続けた。消火作業にあたった隊員の一人は「ガスがかっていて強風なので、残火の確認も念入りにやらなければならなかった」と疲れた様子で話していた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA