支局長からの手紙:400年の歴史 /島根

8月3日16時0分配信 毎日新聞

 「金属製の格子ぶたで隠れていますが、大手前通りには、松江城の石垣と同じ石材で造られた側溝があります。松江開府から400年。当時の姿のまま残っているなんて、すごいでしょう。でも、道路が拡幅されれば溝は暗きょと化し、見ることができなくなる」
 大手前通りの北側に接する松江市母衣(ほろ)町の自宅で、「松江城大手前通り拡幅に反対し美しい街並みを保存する会」会長の三反田(みたんだ)輝雄さん(83)に話を聞きました。帰り際、格子ぶたのすき間から下をのぞくと、頑丈そうな古い石組みの溝が確かに見える。同じ町内会に住みながら、身近にそんな遺構があるとは知りませんでした。
 県物産観光館から、東の松江市総合体育館そばまで延びる通称・大手前通りは、幅約11メートルの道路です。大手前通りを含め武家屋敷があった街区には、現在も「武者隠し道路」と呼ばれる鉤(かぎ)型道路がいくつも残っています。“激変”が起こったのは約6年前でした。市内の渋滞緩和解消のため、環状道路・城山北公園線(延長約1040メートル)として整備されることになったからです。
 1期・2期計画では、03年度~14年度ごろにかけて4車線とし、右折だまりや、両側に停車帯、自転車歩行者道を設けた幅29メートルの道路を全通させます。「拡幅問題はまず昭和30年代に起こり、その時は、住民の反対運動が巻き起こり頓挫したんです。計画の再浮上に、じっとしていられなかった」と三反田さん。後に「城下町松江の景観と町づくりを考える会」も発足させ、現在は代表世話人を務めています。
 1日午後、近くの県民会館で「保存する会」「考える会」など主催の学習会があり、私も参加しました。財団法人・島根総合研究所理事長で、公認会計士の山根治さんが「大義名分なき公共工事」と題して講演。山根さんは「2工区(420メートル)について、県は20年以上先の平成42年の交通量1日2万台を基準に費用対効果を計算している。保存する会の調査では、交通量は現在、1日1万1000台がせいぜい。日本の自動車の保有台数は既にピークを迎えているのに、交通量を水増しし過ぎている」と批判しました。
 事業主体の県にも話を聞きました。土木部都市計画課の林秀樹課長は「武者隠し道路など、当時の道がそのまま残っているのは大きな財産。しかし、大手前通りは右折ラインが十分に確保できず、ラッシュ時には身動きが取れない。これは何としても解消すべきです」と言います。「12年度には、建て替え中の松江赤十字病院が完成する予定です。ところが、日赤前の交差点は路線バスが曲がれない。お年寄りや体の不自由な人たちのために病院そばに停留所を作る。それは必要な施策です」とも。
 29メートル幅の道が必要かどうか、私は正直、釈然としません。費用対効果の一つの指標として「交通事故減少便益」がありますが、道路幅が広がれば、お年寄りは渡り切るのに時間がかかります。信号待ちの時間が増え、かえって効果は薄れると思うのですが、どうでしょうか。行政、住民双方の話し合いの余地はまだまだありそうです。【松江支局長・元田禎】
motoda@mbx.mainichi.co.jp

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