■各地の遺跡から歴史を科学する
古代遺跡で人工的な穴が見つかったとする。それは柱の穴か、トイレの穴か。
穴から木片、ウリの種、ハエのさなぎの三つが出土したら、それは間違いなくトイレの跡なのだという。寄生虫卵が出たら大当たり。なお木片は、紙のない当時の始末用品だった。
著者は各地の遺跡でトイレ跡を調べてきた。その結果、弥生時代までは空き地で適当にすませていたが、古墳時代にはトイレを使いはじめ、しかも水洗式が登場した可能性があると指摘する。
藤原京では、通りの側溝から屋敷内に流れを引き込み、それでトイレを流した。そのあと流れていく先は、もとの側溝。したがって水の少ない時期は、都じゅうがえらいことになった。政府は、雨の日に囚人を動員してその掃除をしたという。
また、福岡市の「鴻臚館(こうろかん)」のトイレ跡からは、鉤条虫(こうじょうちゅう)の卵が大量に見つかった。これはブタ肉食に特有の寄生虫で、すなわち日本人のトイレではない、と推論する。
トイレひとつでこれだけさまざまなことが考えられる。楽しい本である。