北総の森発 自然観察会

11月末、市川市の大町公園自然観察園。船橋市小室町の小室公民館が募った自然観察会「北総線の小さな旅」の参加者26人が晩秋の杜(もり)を歩いた。

 「ツタは下から、紅葉は上から赤くなる」「『ガァガァ』鳴くのが雑木林のハシボソガラス。『カァカァ』鳴く銀座のカラスはハシブト」……。散策路を歩きながら、自然観察指導員、平栗瑞枝さん(66)が繰り出す解説に時折、笑いも起きる。同公民館が1997年から年3回主催する旅だ。平栗さんが案内役を務めて39回。北総線の京成高砂駅(東京都葛飾区)―印旛日本医大駅(印旛村)の雑木林や湿地などを歩いてきた。

 エノキやケヤキなどまっすぐに伸びた立ち木に交じり、曲がりくねったイヌシデの木を見つけた。「建築材に使いにくいから、昔の人は侮蔑(ぶ・べつ)的に呼んだのね」

 小池維世子さん(78)は発足時から参加。地域に住んで50年ほどだが、仕事や子育てに追われた。参加した観察会で「身の回りにこんなに豊かな自然があったと気づかされた」。身近な植物のエピソードは家で小学生のひ孫に披露する。同公民館では安全のため、観察会の前に職員と市民が歩く。職員の花井隆男さん(57)は「北総の豊かさを実感する」という。

 樹木は環境のセンサー

01年発足した「北総の森・巨樹・古木研究会」(会員96人)も一帯の自然をいとおしむ。

 平栗さんも会員だ。育ちにくい樹種を除き、地上1・3メートルでの幹周りが3メートル以上が「巨木」。5メートル以上だと「巨樹」と呼ばれる。ケヤキやスダジイ、カヤ、クスノキ……。市内の立ち木169本を調べて05年、カラーの「ふなばし巨木・名木マップ」(船橋市緑の基金発行)をつくった。19本追加して、第2版(07年)も。

 研究会では「森は生物の主人公。巨樹巨木から学び、人間社会と共存する生態系豊かな森の再生と保全」という目的を掲げる。

 幹事・相談役の川井洋基さん(66)は樹木医だ。「樹木に寿命はなく、環境のセンサー(感知器)だ。人間の衣食住から生命にもかかわっているのに、人間は植物に生かされていることを忘れがちだ」と活動の意義を話す。

 今年は、印西市の小林地区や柏市の布施弁天一帯などを訪ね、新宿御苑で庭園美も楽しんだ。

 新年2月には「柏井・奉免の巨木」(市川市)に足を運ぶ。

 森の一本一本 生きる仲間だ

 平栗さんは静岡や長野などで育ち、中学生時代に買ってもらった図鑑で植物に親しみ、高校時代は生物部員。船橋市に住んでからも周辺の植生観察を続けた。地元公民館利用者の懇親会で訪れた自然公園で解説したのが目にとまり、同市内の各公民館講座を引き受けるようになった。08年度は10公民館で計22回。日本自然保護協会の自然観察指導員だ。

 漢字表記にもこだわる。効き目が早いとされる薬草、ゲンノショウコは「現の証拠」。別名のミコシグサは「神輿(み・こし)草」。種の形が神輿に似ているからだという。「漢字だと植物の由来を覚えやすい」

 北総線沿線も宅地化など開発が進む。平栗さんは「側溝がコンクリートになったり、畑で農薬が使われたりしてドジョウやカエルが減った。エサにするヘビも減った」と環境保全の大切さを話す。

 木々に触れながら、森への視線が変わってくる。一本一本に人生があり、同じ地球に生きる仲間ではないかと。(吉井亨)

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