民家に犬60匹、近所とトラブル 飼い主、殴られけがも

福岡県直方市の民家で60匹の犬が飼われ、鳴き声や悪臭が近所とトラブルになっている。今月になって飼育法をめぐり傷害事件まで起きた。苦情を受けた県は約6年前から、飼い主の30代男性に動物愛護法などに基づいて適正に飼育するように口頭で指導を繰り返してきたが、勧告や警察への告発まではしていなかった。

 事件は12月18日に起きた。狭い路地を挟んで隣に住む無職男性(73)が、自宅前の路上にいた飼い主の頭を鉄の棒で殴り、軽傷を負わせた傷害の疑いで、直方署員に緊急逮捕された。男性は朝日新聞記者と接見し、「殴ってしまったのは申し訳なかった」としながらも、「昼夜を問わない犬の鳴き声を何とかしてほしいと何度も訴えたが、聞いてくれなかった」と話した。

 容疑者男性は、隣家の犬の鳴き声対策で、約8年前から数十万円をかけて家の防音工事を行ってきたが、半年ほど前からは睡眠薬なしでは眠れなくなったと主張している。

 飼い主方の敷地は約700平方メートル。記者が実際に訪れると、敷地の周囲を取り巻くさくの内側や、庭に設置されたおりの中にいる犬が一斉にほえ始めた。室内からは無数の小型犬の鳴き声が聞こえ、シャッターの下りた車庫の中からも声が漏れていた。近所の住民によると、ピレネーやドゴ・アルヘンティーノ、ミニチュアダックスなど、10種類を超える犬がいるという。

 周辺には犬の排泄(はいせつ)物によると思われる悪臭が漂っていたが、地元の自治区長(57)によると、「飼い主方の排水溝から流れ込んだ汚物のにおいが側溝から出ている」のだといい、鳴き声とともに悪臭についても住民間で苦情が出ている。飼い主に対し、2年前にも注意したが、対策は講じられなかったという。
県嘉穂・鞍手保健福祉環境事務所(同県飯塚市)によると、2003年12月に住民から「鳴き声がうるさい」「汚物が側溝に垂れ流しになっている」などの苦情が寄せられるようになり、動物愛護法や県動物条例に基づき、07年6月までに計8回、飼い主に口頭で改善を指導した。

 指導で改善されない場合、文書による厳重注意や勧告、警察への告発もできるが、そこまではしていなかった。この飼い主への苦情は計10件だが、昨年度以降は2件で、担当者は「苦情が少なかったため、指導にとどめた」と説明している。

 傷害事件の被害者となった飼い主は事件後、同事務所などの聴取に対して、60匹のうち33匹が自分の飼い犬で、1匹も狂犬病の予防注射を受けていないことも認めた。残りの27匹は預かり犬などで、予防注射の有無は不明という。その後、5匹に予防接種を受けさせ、今後も月に5~6匹ずつ受けさせることを直方市と約束。同事務所は「適正な頭数になるよう、今後も指導を続けたい」としている。

 飼い主は28日、朝日新聞の取材に対し、「話すことはない。改善はする」と話した。(中野浩至)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA