岐阜市の岐阜高校の自然科学部生物班が3年前に放流した絶滅危惧(きぐ)種の両生類カスミサンショウウオが先月下旬、同市内の生息地で産卵した。同校が保護したカスミサンショウウオが繁殖したのは初めて。日本生態学会でも活動が認められ、審査員特別賞を受賞。生息数も増え始めており、部員たちの努力が希少種の成育を後押ししている。
県内では2カ所で確認されているカスミサンショウウオだが、危機的な状況なのが岐阜市。生息地は、ある駐車場の側溝付近で、昨年確認できた成体数は17匹。渇水や農薬の流入などが懸念されたため、同校と各務原市の県世界淡水魚園水族館「アクア・トトぎふ」が、保護、放流活動を3年前に始めた。
生徒たちは繁殖期の1月末から4月末にかけ、卵や幼生を保護。校内の水槽で餌を与えて育て、えらがなくなる「幼体」になる6~7月に側溝付近に返す。3年前は498匹、昨年は976匹を放流した。
雄は2~3年、雌は3~4年で繁殖期を迎える。普段は側溝近くの落ち葉や腐葉土の下で生活し、繁殖期になると側溝内の水の中に雄と雌が姿を見せる。部員が放流した個体は昨年は確認できなかったが、今年は雄8匹と雌6匹が現れた。大きさから3年前に放流した個体であることが確実で、雌はそれぞれ卵が約40個入った卵のう一対を生んだ。
側溝付近のごみを拾ったり、農薬の流入を防ぐ堰(せき)を設けたりするなど環境も整備してきた。2年前に確認した成体の数は4匹だったが、今年はすでに40匹。部員は毎日交代で餌やりを続け、2年小嶋一輝部長は「活動が報われてうれしい。いずれは人の手がなくても生きていけるようになってくれれば」と期待している。
部員はカスミサンショウウオの遺伝子を調べ、他県の個体より、近親交配が少なく遺伝的多様性が高いことも突き止めた。顧問の高木雅紀教諭(44)は「粘り強く続けた生徒たちの情熱を知ってもらえれば」と話した。
カスミサンショウウオ 主に西日本に生息し、体長は6~13センチでオタマジャクシのような愛らしい姿が特徴。県内の生息域は岐阜市、揖斐川町の2カ所のみで、岐阜県が愛知県とともに国内生息域の東端とされる。幼生期に9割以上が死滅してしまい、環境省は絶滅危惧(きぐ)2類、県は1類に指定している。