豊岡市の公立豊岡病院を拠点に県北部と京都府北部、鳥取県を運航エリアとするドクターヘリが就航して17日で丸1カ月になる。16日までの30日間で、天候不順で運航できなかったのは2日間だけで、出動回数は計82回。1日平均では約2・7回で、今後の天候にも左右されるが、「日本一」というハイペースで出動を重ねている。
17日に同病院であった記者会見で、ドクターヘリを運航する同病院但馬救命救急センター長の小林誠人医師は「ドクターヘリが必要な地域であることを改めて実感した」と、就航1カ月を振り返った。医療機関が少なく、患者の搬送時間も長い地方の救急医療のあり方について、「ドクターヘリが有用だという答えが出た1カ月だと考えている」と付け加えた。
ヘリが出動していなければ、患者が命を落としていた可能性がある事例が1割強程度あったという。具体例として、朝来市山東町へ出動した心筋梗塞(こう・そく)患者を挙げた。通常救急車で同病院まで1時間近くかかるところを、ヘリに乗った医師が9分で現場に到着。心肺停止になる可能性が高い症状だったが、早期に治療を始めたため、患者は心肺停止にならずに2週間後に自力で歩いて退院したという。
課題として、出動が終わるごとに但馬空港で給油が必要なことや、保安上の問題から夜間にヘリが同病院に駐機できず、天候状態によっては朝に病院へすぐ移動できないことがある。また、出動要請のあった地域に偏りがあり、小林センター長は「ヘリが必要だった患者さんはまだいると思う。もっと積極的に要請してもらえるよう消防機関にお願いしたい」と話した。
豊岡市内で4月末、取材の帰路で、サイレンを鳴らして走る救急車とともに、事故で車に人が閉じこめられたときなどに出動する救助工作車とすれ違った。大きな事故かもしれないと思い、サイレンの音を頼りに後を追った。
現場に着くと、田んぼのあぜ道から2メートルほど下の道路に転落したトラクターがひっくり返っていた。その下で運転していたとみられる男性が道路の側溝に頭から落ちているところを、救急隊員が救助しようとしていた。幸いにも男性は側溝に落ちたことでトラクターの下敷きにはならず、意識もあるようだった。
すでに上空に姿を見せていたドクターヘリがほどなく下降を始め、近くの農道付近に着陸。医療器材を持った医師と看護師3人が現場に駆け付けた。「聞こえますか」「名前を言えますか」。救助された男性の意識レベルを確認するため、医師らが話しかける。同時に服をはさみで切り裂き、注射や点滴を始め、携帯型の画像診断装置で内臓の出血や損傷も確認していた。応急処置を終え、男性を乗せてヘリが飛び立ったのは着陸から約20分後だった。
(山岸達雄)