手塩にかけた農作物を食い荒らす「害獣」の被害が収まる気配を見せない。相手は、イノシシ、ハクビシン、アライグマ、サルと種類が多く、食害や行動のパターンはまちまち。県は2006年度からアライグマ対策に力を入れるものの、全体の被害額はさほど減らない。今年はイモ畑でイノシシが暴れ回り、食べ頃のブドウやカキ畑でも大被害の兆候が表れている。自治体からはこんな報告も上がる。「お年寄りの農耕意欲がなくなっている」(田坂誠)
県内で野生動物の被害が最も激しい秩父地方。丘陵地にある横瀬町の農業八木原章雄さん(63)の畑には、サル、イノシシ、シカ、ハクビシンなどが続々と出没する。柵やワナも仕掛けるが、この夏、約5アールのブルーベリー畑の1割がハクビシンなどにやられた。「年に1回の作物。やられると本当にがっかりする。このままでは一帯の農地放棄が進みかねない」。八木原さんはため息をつく。
秩父市大滝の70歳代の女性も「畑が一晩でやられた。もう作る気になれない」と訴える。7月の地元特産「中津川いも」の収穫期を前にイノシシが大暴れ。被害が7割にも上った農家もあった。
県や市町村、猟友会などでつくる秩父地域鳥獣害対策協議会が先月に開いた初幹事会でも、横瀬町の職員は、「ほぼ全域で被害が発生し、耕作意欲もなくなってきている」と報告した。
■捕獲数急増 被害額あまり減らず
県のまとめによると、こうした野生動物たちの「捕獲」総数は、01~05年度は2000頭前後で推移していたが、06年度から3000頭台になり、昨年度は5065頭と過去最高を記録した。アライグマとハクビシンの対策強化が要因だ。
特にアライグマについて県は、06年度から特定外来生物法に基づく「計画捕獲」を実施。昨年度に捕獲された1767頭(前年度比832頭増)の94%を占める。ハクビシンも01年以降、捕獲が毎年増え続け、昨年度は974頭(同543頭増)。シカとイノシシを抜いた。
しかし、昨年度の農業被害は9259万円で、07年度より450万円ほどしか減らなかった。アライグマ被害は1181万円減って285万円、ハクビシン被害も863万円減の450万円と抑止される中、サル被害は逆に3626万円増え、6341万円に上った。
野生動物たちの好みは多様だ。イノシシはイモや果物、水田で暴れ回ることもある。シカは樹皮だけでなく、タケノコやワサビも食べる。アライグマやハクビシンは、ブドウやスイカ、トウモロコシなどが好物だ。
「被害を防ぐには、頭数を管理し、農地に近づけない工夫も必要」と指摘するのは、県農林総合研究センター中山間営農担当(秩父市)の古谷益朗・担当部長。古谷部長らは02年度から08年度にかけ、生態がよく分かっていないハクビシンに発信器をつけて行動を調査。雄・雌とも別々のねぐらを複数持つことや、餌場までの移動には側溝などの水際を好み、水の中にフンをする行動パターンなどをつかんだ。ワナの仕掛け方や、農地に近づけない対策などに生かすという。
秩父市もこの春から、群れで行動するサルの生態を利用した撃退法を試行している。捕獲したサルに電波発信器を付けて放し、畑に近づくと花火で威嚇するというやり方だ。
■県全域に拡大
被害は県全域に広がっている。
小川町産業観光課によると、秋口になり、アライグマやハクビシンによるカキ被害が目立ってきた。県春日部農林振興センターは「アライグマ、ハクビシンによるブドウなどの果樹被害が3年くらい前から現れた。被害が減っている感じはない」とする。
上尾市農政課の担当者は先月中旬、JA職員と一緒にブドウなど計16か所の果樹畑を調査した。半数が被害に遭っていた。職員は危機感を募らせる。「うち1か所は畑全体がやられていた。今年は昨年よりひどいことになるかもしれない」
(2009年10月3日 読売新聞)