奈良市で平成16年、市立富雄北小学校1年だった有山楓ちゃん=当時(7)=が誘拐、殺害された事件は、17日で発生から5年を迎える。奈良県警捜査1課長として当時、捜査の陣頭指揮をとった葛本英治さん(60)=奈良県橿原市=は今春、県警を退職。「二度とあんな悲惨な事件を起こしてはいけない。楓ちゃんに天国で見守ってほしい」との思いで、青色防犯パトロール隊を発足させ、現在は地域の巡回を行っている。
5年前、別の殺人事件の捜査を行っていた葛本さんのもとに、楓ちゃん誘拐の一報が入ったのは16年11月17日。楓ちゃんの携帯電話から母の江利さんに、「娘はもらった」というメールが送られてきた。18日未明には奈良県平群町菊美台の側溝で、楓ちゃんの遺体が発見され、県警は誘拐、殺人事件として奈良西署に特別捜査本部を設置した。
捜査の陣頭指揮をとることになった葛本さんは「犯人を突き止め、ご両親の無念を晴らすことができるのは自分たち警察官しかいない。必ず捕まえる」と心に誓った。「自分の子供や孫がこんなむごたらしい事件に巻き込まれたら」。葛本さんをはじめ多くの捜査員がそんな心境だったという。やがて、捜査線に小林薫死刑囚(40)が浮上。県警は12月30日に小林死刑囚を誘拐容疑で逮捕した。
事件は解決したが、幼い子供を守れなかったという思いは強く残り、葛本さんは19年10月、元同僚らとともに防犯パトロール隊を結成。約20人のボランティアを集め、4人1組で週2回、自宅のある橿原市内の巡回を始めた。退職直後の今年5月には青色防犯パトロール隊を設立。青色回転灯をつけた自家用車で、防犯活動を続けている。
「楓ちゃんが生きていれば、来年は中学生。ご両親の心境を思うと今も言葉がないし、楓ちゃんの未来を奪った事件を忘れることはできない。人生観も変わった」と葛本さん。毎年、17日には楓ちゃんが発見された現場へ赴いており、今年も線香を手向けるつもりだという。「自分の体力が続く限り、防犯パトロールを続けたい」と語った。